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3年前にドイツ製のバスタブを買った。選んでいたモデルが購入直前に製造停止となった。飛行機のマイルを調べると、2万5千マイルでドイツへ行ける。これはお得。それに、風呂桶を買いにハワイからドイツへという、馬鹿々々しさが洒落ている。ホテルも予約せずに4日後には妻とドイツに飛んだ。

2週間の旅だが、初日に買い物は終了。残りの2週間は気ままなドイツ観光となった。ドイツのコーヒーは美味しい。これには驚いた。ホテルや街角や駅の売店の普通のコーヒーが美味しい。焙煎や抽出というよりも、豆が良い。列車に乗る前に駅のキオスクでコーヒーを買ったら、割と質の良いナチュラル製法だった。キオスクにしては相当な自己主張だ。こういう街角の普通のコーヒーの豆が自己主張するのは、米国や日本にはない文化。

スペシャリティーコーヒーの店のレベルも高い。店主自ら産地へ通う。また、欧州各国の商社や同業者とネットワークを持ち、マイクロロットの豆を仕入れる。焙煎・抽出・硬水の処理のこだわりもさることながら、豆の仕入れに自らの存在価値を置いている

流石はドイツ。1683年にトルコ軍がウィーンを包囲して以来のコーヒーの歴史と文化がある。日本人がせっせとお茶の文化を育んでいた頃から、コーヒーを飲み続けていることだけのことはある。国全体でコーヒーのレベルが高いと感心した。

さて、話は変わるが、先月号で、うちのコーヒー畑に菩提樹を植えたと記した。実は、このドイツ旅行で、ミュラー作詩、シューベルトの作曲「菩提樹」のモデルになった菩提樹がドイツの田舎町にあるというので寄ってみた。

泉にそいて 茂る菩提樹

したいゆきては うまし夢見つ

みきには彫(え)りぬ ゆかし言葉

うれし悲しに 訪(と)いしそのかげ

有名なこの近藤朔風の訳詞でずっと疑問に思っていた。この泉はどれ位の大きさで、それに沿って何本くらいの菩提樹が植えてあるのか。吉祥寺生まれの私は、井の頭公園のような細長い池の畔に、菩提樹が一列に並んでいる光景を勝手に想像していた。

ところが、なんと、その泉は1m四方ぐらいの井戸。その隣に一本の菩提樹。実はドイツ語だとそれが明白。歌の出だしはAm Brunnen vor dem Thore Da steht ein Lindenbaum(城門の前の井戸に一本の菩提樹がある)。この詩は、恋に破れた青年が町を捨て、いよいよ城門を出て菩提樹の脇を通り過ぎるとき、かつて恋人と菩提樹の幹に愛の言葉を落書きした思い出がよみがえるという内容。実に「泉に添いて茂る菩提樹」は名訳だが、泉とは井戸。しかも、「沿いて」でなく、「添いて」。私は全く勘違いをしていた。ドイツの涼しげな湖畔の菩提樹並木を歩く情景を想像していた私は、40年以上も間違ったイメージで口ずさんでいたかと思うと恥ずかしい。

ちなみに、亡父が旧制二高時代にドイツ語の授業で、この詩を訳せと当てられて、近藤朔風の訳詩をそのまま朗々と詠じて、ドーっと、クラス中の喝采を浴びたと言っていた。昔の高校生は随分レベルが高い。ドイツのコーヒー並みだ。

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