雑誌「珈琲と文化」2019年1月号に拙稿が掲載されたので、転載します。女性ピッカーと男性ピッカ―の違いについてです。ご笑覧ください。
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2018年のコナは正月からコーヒーの花が咲き、5月まで数週間おきにバラバラと開花が続いた。収穫は8月に始まり、7周した。年明けにもう1周して終了。あと一息だ。


収穫時にはひとつの枝に緑の実(未熟)と赤い実(完熟)とが混在する。その中から赤い実だけを摘む。ひとつひとつ手で摘む作業はかなりの注意を要する。3週間で農園を一周して元の木に戻る。一周に4週間以上かかると、完熟を通り過ぎて、腐敗したり、カビがはえたりする。逆に急ぎすぎると、摘み方が雑になる。緑の実が混入すると渋みがでる。また、完熟実を枝に摘み残すと、腐敗・カビの問題が起きるし、CBB(Coffee Berry Borer)という害虫の餌食になって、害虫の被害が広がる。実を地面に落とすのも害虫が広がる原因なので不可。丁寧な収穫が肝要。

うちの畑では、収穫バスケットに小さなジップロックの袋を取付け、望ましくない実はそこへ入れる。つまり、一つの木を摘む際は、バスケットの中には完熟実だけが入り、誤って摘んだ緑の未熟実や木の上で乾燥してしまった過熟実、カビの生えた実、不健康な実はジップロックへ入り、摘み終わった木には完熟実や過熟実は取り残されていなく、地面には実は落ちていない(落とした実は拾う)、というのが正しい収穫方法だ。

雨期と乾季の区別がはっきりした地域では、一斉に開花し、収穫も短期間に集中する。果実の熟度が揃うので収穫は比較的簡単。ブラジルのような例では、かなり熟度が揃うので機械収獲が可能となる。

コナの場合は収穫時期が4~5カ月に渡る。ピーク時でも完熟実の割合は3割以下なので、機械収獲は無理。注意深く手作業で完熟実のみを摘まなければならない。

 

International Trade Centreは世界全体のコーヒー収穫の担い手の7割ぐらいが女性だと推測している。持久力と忍耐力が勝負の仕事なので、コーヒー摘みは女性で、収穫以外の力仕事は男性という役割分担があるのかもしれない。

私の周りにも、コーヒー摘みが好きな女性が多い。うちの妻もコーヒー摘みが好きで、無心に摘んでいると心が落ち着くそうだ。そもそも、彼女に気持ちよくコーヒーを摘んでもらい、我が家の平和を維持するために、私はリタイア後のゴルフ三昧の生活を諦めて、コーヒー栽培をしているようなものだ。

友人にもコーヒー摘みが好きな女性がいて、よく手伝ってもらう。しかも賃金はいらないから、その分、旦那と弟をゴルフに連れて行ってくれという。だから、収穫シーズンが終わると旦那と弟をゴルフに接待する。彼らはコーヒー摘みに興味がないどころか、自宅のコーヒーは全部引っこ抜いて、これでゴルフに専念できると嘯いている。

私の経験から、概して女性の方が男性よりも収穫が上手い。女性の方が速くきれいに摘む。周りの先輩農家に尋ねても、誰もが女性のピッカーの方が上手いと同意する。

たぶんコナでコーヒー摘みが一番速い中米出身の人がいて、ピッカーの間では有名人。どうしたらそんなに速く摘めるのかを尋ねたら、コーヒーの一粒一粒をお金と思え、と答えが返ってきた。彼は収穫時期には相当稼ぐ。ところが、ある年、母国から彼のお姉さんが来た。そしたら、彼よりさらに速くて、随分と話題になった。

うちの妻も、かなり早くきれいに摘む。メキシコ人のグループを雇って、朝から一緒に摘み始めると、うちの妻が一番最初にバスケットが一杯になって、袋に詰め替える。「うあー、あのムチャチャ(お嬢さん)速い!」と言いながら、大男たちが「Vamos! Vamos!(頑張ろう)」と掛け声をかけあう。

スピードもさることながら、丁寧さに関しては、女性の方が断じて上。男性のピッカーに丁寧に摘んでくれと頼んでも、”OK, Boss”と愛想は良いが、多く摘めばそれだけ儲かるので、速くたくさん摘もうとして雑になる人が多い。

なぜ、女性の方が上手いのかは不思議だ。女性の方が単純作業を丁寧にこなすのが得意なのかもしれない。指が細いので、狙った実を正確に摘めるからかもしれない。指が太いと何個もいっぺんに摘んでしまう。なかなか納得のいく決定的な理由は思い浮かばない。

 

以前観たNHKの番組によると、赤い色を見分ける能力は女性の方が高いそうだ。人は色を赤、緑、青の3原色で認識している。そのうちの赤に関し、男性は朱色を最も鮮やかに認識する遺伝子を持った人(A)と深紅を最も鮮やかに認識する遺伝子を持った人(B)に分かれる。男性はその片方の遺伝子しかもてない。一方、女性はこの遺伝子を2つ持つ。つまり、可能な組み合わせは、AA(朱色のみ)、AB・BA(朱色と深紅の両方)、BB(深紅のみ)で、50%の女性がABかBAとなり、AとBの両方を持つ。彼女らは、朱色、深紅、緑、青の4つの色の組み合わせで色を認識している。つまり、男性よりカラフルな世界に住んでいて、特に赤に関する識別能力が高い。残りの半数の女性(AAとBBの人)は男性と同じ能力しかないが、成長する過程で、他の女性の影響を受け、後天的に色に関して敏感になるそうだ。

そういえば、赤と緑を識別できない色覚異常は圧倒的に男性に多い。色覚異常の友人に摘んでもらったことがあるが、上手く摘めなかった。また、多くの国や文化で、赤い服を着るのは女性。デパートの化粧品売り場に並ぶ口紅は、どれも似たような色だが、女性には一本一本違った色に見えるという、にわかには信じがたい噂まで存在する。

そのNHK番組では、なぜ女性がそのような能力を進化の過程で獲得したかは明らかにしなかった。よく、女性が色に敏感なのは、赤ちゃんの肌の色から健康状態を推し量るのに有利だからという説を見かけるが、本当かなあ。人類の故郷アフリカでは、人の肌は黒い。昔、ケニアの田舎のコーヒー産地の村で、地元の人々とバーでビールを飲んだ時、私だけが顔が赤くなるので、面白がられた。彼らは目つきに出るが、顔は赤くならない。

ある日コーヒー摘みをしていたら、その女性の能力についての大胆な新説を思いついた。私の説では、何百万年もの間、コーヒー摘みは女性の仕事だった。人類もコーヒーも発祥の地は東アフリカ。女性とコーヒーは一緒に進化してきたのだ。だから、こんなつらい仕事は女房に任せておけばよい。さっさと遊びに行こう。

いや、これは飛躍しすぎた。それはコーヒーではないかもしれない。しかし、太古、果物を摘むのは主に女性の仕事だったはず。彼女らは、この実は食べ頃、まだ早い、腐りかけているかを瞬時に識別しなければならない。生死に関わる問題だ。これにより、赤い果物の色の微かな違いを適切に認識する能力を獲得するに至ったというのが私の説だ。この能力をコーヒー摘みに応用すれば、摘みごろの完熟実のみを摘むことは、彼女らには造作もないに違いない。

一方、女性が完熟実を摘む能力を何百万年もかけて磨いていた間、男性はマンモスを追いかけていた。朝から集団で出かけ、手に棒を持って草原を駆け回り、獲物を捕らえ、夕方集落に戻ってくるという生活を繰り返してきた。腕っぷしは強く発達したが、赤を識別する能力は発達しなかった。コーヒー摘みが苦手なわけだ。

しかも、男性軍のご先祖様はやり過ぎた。マンモスが全滅するまで、狩りを止められなかった。いや、全滅してもやめられない。数百万年も続けてきた男の習性だ。

やがて、絶滅したマンモスの空白を、文明の利器が埋めた。マンモスの代わりに、直径4センチ強の硬いボールを考え出した。手に持つ棒は14本に増え、バッグに入れて背負えるようになった。そしてやはり4人一組の集団で、朝から夕方まで野原でボールを棒で引っ叩きながら追いかけまわすようになった。器用に池や砂地を避けながら。

だから今日も女房殿がコーヒー摘みをしているのに、私は近所の農園主の男達とマンモス狩りゴルフに出かけるのだ。もうこれは誰にも止められない。なんたって、DNAに組み込まれている。ウッホー ウホウホ ウッホッホー