Post-1888さっきまで妖怪屋のカウンターは常連さんでいっぱい 
あれこれと楽しく話していたんだけど
一人また一人と帰っていって
残っているのはコゲメシと古老一人です

あんたとも長いなあ

そうコゲメシが妖怪屋に顔を出すようになってからもう7年程経ちましたか

いつもカウンターの一番端っこでゆっくりと呑んでおられましたね
マスターが静かに食器を洗っています
ママがあったかいコーヒーカップを両手で包むようにして微笑んでいます

いつも賑やかな妖怪屋だけど
こんな静かな妖怪屋も大好きです

古老が声をかけてくれました

あんた鎌倉の方だってなあ
明日良かったら来るかい


コゲメシのおうちは鎌倉などと言えない工業地帯なんですが
近いことは近いです

明日何かあるんですか?

コゲメシの問いかけに古老がゆっくりと話し始めてくれました


:emojiumbrella:


折からの曇空 
次第次第に雲が厚さを増してきました 

嗚呼 
今日はせっかくの晴天祭だというのに。。。。 

御存じ無い方もいらっしゃるかもしれませんね 
正式には<全国露天商業連合会主催・祭典礼天候祈願祭>と言う長い名称があるんです
 
既に数十年の歴史を持つ 
全国露天商業連合会 
利害の相反する露天商を一つにまとめあげた老人は 
今静かに妖怪屋のカウンターの片隅で杯を傾けています 

若い頃はね 

老人は一人ごちます 

怖いもの無しだったなあ 
毎日が出入りみたいなもんだったよ 
まあ 
今はね 
若い衆の暮らしが何とか成り立って行くようにするのがあたしの務めかな 


そう 
老人は長い渡世人稼業の末 
ようやく業界をまとめ上げたのです 

あの広島抗争の生き残り 
歴史の生き証人です 

いつだか妖怪屋の常連何人かが 
なかなか手に入らない銘柄焼酎の話題になった事がありました 

そんなに手に入らないの? 

カウンター奥から老人が尋ねます 
老人は似つかわしくも無い赤くカワイイ携帯を取り出すと何処やらに電話を入れます 
暫くして 
妖怪屋に入ってきたのは 
明らかに その筋の業界人が二人 
二人とも濃いサングラ姿 
蒸し暑い風の無い真夏の夜にきちっとダークスーツを着こなしています 
スーツの上からも逞しく引き締まった筋肉が感じられます 

若く屈強な二人がカウンターに乗せたのは酒屋さんの通函 
昔ながらの木枠です 

おお 
幻の銘酒 
魔王の一升瓶が8本 

おう 御苦労さん 

老人のネギライの言葉に 
直立不動になった二人は 
礼儀正しく一礼して素早く立ち去りました 

後にも先にも 
魔王の一升瓶が8本一篇に並んだ姿など見られるものではありません 
それも 
老人の電話から僅か10分程の出来事だったんです 


さあ 
話を晴天祭に戻しましょう 

晴天祭は毎年三月下旬の 
比較的天候の安定した時期に行われるのですが 
今年は折からの天候不安の時期が長引いております 

今まで秘匿されてきましたが明かしちゃいますね 
場所は高徳院http://www5d.biglobe.ne.jp/~kabataf/kantoujisin_isibumi/kamakura/kantoukamakura2.htm

もうお分かりですね 
鎌倉の大仏さまです 

明応7年(1498年)の大地震とその直後の大津波までは奈良の大仏さまと同じに大伽藍の中に収められていた大仏さま 

暑い夏 寒い冬に身仏を晒して 
幾年月が経ったのでしょう 

ひたすらに耐える姿に 
露天商達は共感を覚えたのでしょうか 


アイデンティティの問題だね 


どこで聞きかじったのでしょうか 
老人は時々ムツカシイ言葉を使います 


わしらはね 

老人はさらに続けます 


半端者なんだよ 
でも 
やっぱり生きていかなきゃならないし 
人様から尊敬されなくっても 
せめて後ろ指さされないようにしてあげなくっちゃあね 


老人は地道に努力を続けたのです 

いつしか鎌倉の大仏さまは 
露天商達にとって大きな拠り所となってきたのだそうです 

全国から集まった総代8人が羽織はかま姿でしずしずと大仏さまの御前にかしづきます 

これから田植えの時期を迎えます 
春のお祭り 
お盆のお祭り 
秋には収穫のお祭り 

露天商にとって雨は大敵です 

せっかく仕入れた商品が売れないばかりか 
ショバ代や上納金は戻ってきません 

かつて 
バラバラに営みを続けてきた全国の露天商をまとめ上げ大きな組織にした老人 
ここまでの御苦労は語り尽くせません 

ますます厚みを増した黒い雲から 
遂にポツポツと雨が落ちてきました 

関係者一同がはらはらと見守る中 
式典は粛々と続けられます 

雨足が強くなってきました 

大仏さまの境内は玉砂利が敷きつめてあるのですが 
大粒の雨が玉砂利に落ちる音で式進行の若者の声さえ聞きとれないくらいです 

ズブ濡れになりながら 
いよいよ老人が立ちあがり最後の言葉を発します 

本年の荒天 
これにて極めたり 


なるほど 
今年の悪い天気は今日で終わり 
って言うんですね 


まだまだ寒い三月下旬の土砂降りの雨に仁王立ちになって 
雨に負けない大声で今年の晴天を祈る老人の姿に 
心打たれない者はおりません 

いつしか 
式典参加者だけでなく 
一般の参詣者も傘を閉じ 
老人と同じく大仏様に向き合って祈りを捧げます 


老人が大きく 


全国露天商業連合会万歳 


と叫んで今年の晴天祭は幕を閉じたのであります 


太平洋戦争が終わってから幾度も持ち上がった鎌倉の大仏さまに大伽藍を建立する話
がその都度立ち消えていったのには全国露天商業連合会の闇の力が働いているのを知っているのは極々限られた社会の者達だけなんです 




皆さん 
鎌倉の大仏さまを訪れる機会があったら是非背中の方から眺めてください 

ややネコ背でうつむき加減の大仏さまのお姿と 
黙々とたこ焼きを焼く露天商のパンチパーマのおっちゃんとを重ね見てください 







祭典礼天候祈願祭や全国露天商業連合会に関する文献は殆ど発行されていません 

妖怪屋に佇む古老の重い口から根気よく拝聴して今夜のお話をまとめてみました 




最近になって 
ようやく数少ない貴重な文献を見つけました 

興味がありましたらご覧ください 

祭典礼天候祈願祭について⇒http://www.mo-hawaii.com/kogemeshi/1605.html 

全国露天商業連合会について⇒http://www.mo-hawaii.com/kogemeshi/884.html 

長々と読んでいただいてありがとうございました
では又
来年のこの日この晩にお目にかかりましょう:emojiface_glad::emojiface_glad::emojiface_glad::emojiface_glad: